2015/09/18

9月18日 プーラ

9月18日(金曜日)


天気は晴れ、今回の旅行始まって以来、久しぶりに朝から晴れている。昨日スーパーで買ったモッタデッラ ハムとフランスパンで朝食。ペンションの部屋の冷蔵庫には、リンゴと洋ナシ、ミネラル水が入っていてほしければ使ってよいとのこと。ありがたく洋ナシを頂く。


今朝の気象衛星画像(イストリア半島付近は何とか晴れ)


イストリア半島付近の気象レーダー


季節外れの熱波到来中のプーラの天気予報

9時前、観光に出かける。古代ローマの円形闘技場の「朝の光の下での写真」を撮影しつつ、いったん旧市街から離れて鉄道駅へ。一般の観光客はおそらく使わないであろう列車は、数時間に1本、リトアニアとの国境ブゼトという駅に行く列車が出る程度だ。車両が1両だけの気動車は、元の色が何色だったかわからないくらいに落書きがされたシュールな列車だ。


プーラ駅で出発を待つ列車

旧市街へ引き返し、旧市街中心の丘(アクロポリス)の頂上にある城塞を目指す。古代ローマ時代にはカピトリウムがあったと推測されているが、それをぶっ潰してヴェネツィア共和国が砦を建設し、さらにそれをオーストリア帝国が拡張している。オーストリア帝国時代に物資や弾薬を補給するために、旧市街の地下を縦横に走っている要塞トンネルが公開されているが、残念ながら9月15日に閉館してしまった。異常気象で真夏のように暑いのに、観光業だけは着実に秋の閑散期モードに突入している。


城塞の外壁

アクロポリスの丘の城塞は「歴史博物館」との別名を持っているようだが、単に要塞の壁の上に登れるだけで、ほぼ何の展示もされていない。この手のヴェネツィア砦は、どこの国でも何の展示品もなく、単に中に入場できるだけというのが一般的だ。おそらく展示品を陳列していた建物は、観光の季節が終わりすべて改装工事中。ちょうど頭上に薄い雲が出てきて、せっかくの高台から眺める景色も、太陽光が無くては魅力が半減だ。城塞の入場料は20クーナだった。

城塞を出て、城塞の壁の周囲をぐるっと回る道が草むらの中にできている。こちらは無料で、近所の人が犬を散歩させる道にもなっているのだが、実はこちらからのほうが城塞の外周壁の全貌が眺められる。草むらの道を歩いていくと、すぐ下に遺跡の発掘現場らしきものがある。そちらのほうに降りてゆくと、半円形に石の客席がある古代ローマの劇場跡だ。17世紀のヴェネツィア砦の外壁の一部と、2世紀の古代ローマ劇場の壁の一部が一体化している。ローマ時代の建物は半円形で鋭角の角はなく、ヴェネツィア時代の砦は十字砲火を基本とした星形要塞なので鋭角の角が出ている建物だ。そのまったく違う建物の特徴が同じ場所で見れるのも面白い。


古代ローマ劇場(発掘調査中)


鋭意発掘調査中!(古代ローマ劇場)

ローマ劇場の発掘現場の横を通り過ぎると、すぐ横に巨大な考古学博物館の建物がある。入口には「閉館」と書かれているだけで、何曜日に開いているのかすら書いていない。さらに坂道を降りて繁華街の道に出るところに、古代ローマ時代のヘラクレス門のアーチが残っている。このアーチが考古学博物館の正門のようなのだが、そこに出ている張り紙には「2013年から改装工事中」と書いてある。そんな長い間改装に時間がかかるはずもなく、実質上閉館したのだろう。


旧市街と新市街の繁華街のちょうど境目にある古代ローマの門

マクドナルドがあったのでアイスクリーム(12クーナ)とサラダの小(13クーナ)を食べる。1クーナが19円弱ほどなのでアイスクリームが230円ほどという価格設定だ。だいたい日本と同じか、少し高いくらいだろうか。それでも、イタリアよりは5割引き位の価格だ。いかに日本の政府が為替の切り下げで国民資産を減価して財政ファイナンスしたのかというのがわかるというものだ。まあ、海外に行かないたいていの日本人にはわからないので、今の自民党がいかに無茶苦茶なのかというのがバレないのは幸運なのかもしれない。
しばらく旧市街の観光地区をぶらついて、ちょうど見かけたフランシスコ修道院に入る。修道院というもののそれほど大きくはないが、回廊の雰囲気がくそ暑い外に比べて涼しげでよかった。旧市街の海の横にある大聖堂は16世紀の建物だが、この修道院はそれより少し古い14世紀のものだそうだ。

ちょうど昼時なので、昨日の夕食を食べたセルフサービス式レストラン「通称人民食堂」に向かう。ポークチョップと、山盛りのいんげんの煮物、サラダと水で38クーナ(722円)。観光地区に軒を連ねるレストランでは、ステーキなどの1品が50~70クーナで、サラダが50クーナ弱程度なので、人民食堂の安さはおそるべしである。レストランに入っている客はそれほど多くはないが、こちらの人民食堂には次々と地元の客が入ってくる。たいていは共産主義時代を経験している中年以上の年代の人たちだが、そうじゃない若い人や隣国からの観光客なども入ってきている。

かつて、共産主義の時代には(国によっては)まずレジ(カッサ)で値段を支払って引き換えレシートをもらい、それを料理のショーケースのところで提示して料理と引き換えてもらうような、「ややこしいシステム」のところもあった。共産主義国が崩壊し、資本主義に吸収されたときに「ややこしいシステム」を放棄したのだろう。いまでは「まず引換券を買う」ようなレトロな雰囲気のところに出くわすことはめったにない。


大聖堂。内部はいたって地味で入場無料

食後、頭上に広がっていた雲が北へ去り、強い日差しが出てきた。再び古代ローマ劇場やヴェネツィア砦を撮影しにアクロポリスの丘に登り、そのままフォルム広場に抜けてローマ神とアウグストゥス神殿を見に行く。神殿の大きな扉は少しだけ開いていて、中に何らかの彫像が飾られているのが見えるが、昨日も今日も開館する気は全くない様だ(入場料20クーナで9時から18時まで開いていると張り紙はしてある)。管理人らしき人は座っているのだが、たんに開館したくないのだろうか…。

この街の観光の締めくくりに、円形闘技場を見に行く。入場料40クーナを払って中に入る。周囲のフェンスが低く、隙間が十分あるので中に入らなくても見物は可能だが、せっかくここまで来たのだから1000円程度はケチらずに中に入ってみる。闘技場は外壁だけが残存していて、客席部分はほぼ崩壊している。ただ、近年にコンサートなどのステージとして使うため、石でできた客席を半周分だけ無理やり復元している。


円形闘技場

闘技場は楕円形で132m×105m、高さは32mの3段アーチ(海側)、2万3千人が収容できたそうだ。数日前に見たヴェローナの闘技場は3万人収容、ローマのコロッセオ(フラヴィウス闘技場)は5万人から8万人収容なので、それらよりは少し小さいが残存する中では世界第6位だそうだ。(Wikipediaによる)

闘技場の地下のうち、通路1本が公開されていて、そこにはなぜかプーラ郊外の遺跡で発掘された古代ローマ時代のオイルミルの石臼やアンフォラが展示されている。傍らには古代ローマの街道地図タブラ・ペウティンゲリアナが参考展示されているが、ミュージアムショップでイタリア半島北部付近だけをA3サイズ程度に複製したものが売っているのには驚いた。本来は、長い巻物の地図の一部なので、知らない人はこういうものでも買って帰るのだろうか…。 (9月19日の旅行記に、今回の旅行先をこの古代ローマ地図にプロットしたものを掲載している)

これで、今回の旅行の目的だった「ポストゥミア街道沿いの古代ローマ遺跡を見て回る」目的はほぼ達成した。もちろん、アクイレイアは訪れていないが、あそこは交通事情が悪すぎて、この猛暑では訪問する気になれなかった…。
あとは、明日の早朝にヴェネツィアに戻り帰国便(パリ行きの飛行機)に乗るだけだ。

で、難民が押し寄せて国境がどうなっているのか心配で、バスターミナルに行ってみる。切符売り場で、明日早朝のヴェネツィア行きが出発するか聞いてみると、6番乗り場から出発する予定だそうだ。いまのところ、国境はまだ開いているのだろう。16時間後どうなるかはわからないが…

ペンションに戻り2時間ほど休憩して、夕方の旧市街の散歩に出かける。フォルム広場にあるローマ神とアウグストゥス神殿に行き、扉を開けて中にいる人に見学できるかどうか聞いてみた。単にドアを閉めているだけで、見物できるとのこと。10クーナ払って中を見る。ローマ皇帝の像と思われる石像が2体と、フリーズなどの破片が何種類か展示されている。フォルムに面して建っていたのは、今残っているローマ神の神殿のほかに、現在は市庁舎が建っている場所にユピテル神殿があったそうだ。中世、ローマ神の神殿は教会として使われたため壊されずに残り、第二次大戦のアメリカ軍の爆撃で崩壊したものを戦後になり再建したものだそうだ。


ローマ神とアウグストゥスの神殿(左側)と市庁舎(右側)

旧市街の目立たない駐車場のわきに、古代ローマ時代の邸宅跡のモザイク床が展示されている。モザイク床だけなので入場料を取るわけにもいかないのか、地味に展示されている。

夕食は、この街にきて3回目の人民食堂(正式な名称は 公設市場食堂 らしい)に入り、魚のグリル料理と野菜スープ、サラダを食べる。これだけの量を食べても48.5クーナとお得な価格だ。


公設市場食堂での食事

ペンションに戻る途中、円形闘技場の横の駐車場に『IRONMAN』とのぼりが出て、ランニングやサイクリング用品を売る屋台が並んでいる。もちろん、自転車に乗ったプロっぽい人たちもたくさん集まっている。ネットで検索すると、明後日の日曜日(9月20日)に、ここプーラで鉄人レース(トライアスロン)IRONMAN 70.3が開催されるようだ。どうりで、自転車乗りが集結しているはずだ…

■ Guest House ZoNa ダブルルーム 1泊340クーナ(45ユーロ相当)