9月14日(月曜日)
未明より、豪雨と雷。泊まっているユースホステルは川の横にあり、窓からは濁流がいまにも建物を流しそうな気もする。ただ、古代ローマ時代から川はここにあり、マテオッティ広場を挟んだ向かい側には古代ローマの劇場跡があるので、まさか土地が崩れて流されるということはないだろう。
7時30分、ユースホステルの地下1階のカフェテリアで朝食。イタリアのユースホステルの例にもれず、パンと飲み物のみの質素なものだ。さて、これからさらに激しい豪雨が来るようだが、出かけるべきかどうか…
土砂降りの雨では、ヴィツェンツァ旧市街の観光もままならないので、列車で1時間の距離のところにあるヴェローナに行くこととする。運が良ければ、列車に乗っている間に雨が弱くなるかも…
ユースホステルを出て、土砂降りの雨の中を駅に向かって歩く。途中、古代ローマ時代に作られたサン・ミカエル橋を渡る。橋は中央が太鼓橋のように盛り上がった形状の坂道になっていて、土砂降りでも雨水が溜まらない。古代ローマの技術では、道路が水平の橋も実際に架けられているのに、なぜここの橋を太鼓橋にしたのだろうか。
ヴェローナ行きの列車の出発時刻の5分前に駅に着き、自販機で切符を買うと、画面に「5分遅れています」と表示された。欧州の鉄道で5分程度の遅れは「定刻」と考えてよいレベルだが、さすが「機械が判断する自販機」は律儀だ。
■ ヴィツェンツァ 09:30発 → ヴェローナ ポルタ・ヌオーヴァ 10:30着 (普通列車,2等運賃 5.4EUR)
ヴィツェンツァ駅で列車を待っているときに、ほぼ雨が上がる。列車でヴェローナ方面へ向かうにつれ、雲の間から晴れ間が出てきたりする。スマートフォンでヴェローナの天気を表示すると、曇り時々晴れで、レーダー画面では雲が西へ通り過ぎつつあるようだ。ほとんど誰も乗っていない列車の車内は、ヴェローナに近づくにつれ客が増え、終点ヴェローナには10分ほど遅れて到着。今回も、列車は遅れる一方で決してスピードアップして遅れを取り戻すということはなかった。
■ 鉄道駅 10:49発 → ブラ広場 10:58着 (市バス11系統,運賃 1.3EUR)
駅のタバッキでバスの切符を買い、駅前のバスターミナルから11系統のバスに乗る。一方通行が多い道を、だいぶ遠回りして旧市街の橋の円形闘技場前の広場(ブラ広場)に到着。
目の前には、アウグストゥスの治世に造られたと考えられている3万人収容の円形闘技場が完全な姿で目に入ってくる。実際は、最外周部分の壁は12世紀の地震で崩落し、現在見えている外壁は建物の内部構造だった壁だそうだ。月曜日だけは午前中は休館しているはずだが、観光客が多い季節なのからなのか、すでに入場口が開いている。10ユーロ払い中へ。
闘技場の中央部分には、コンサートなどのステージが設置され、大理石の座席部分には板がかぶせられ、仮設のプラスチックの座席が取り付けられている。Wikipediaによれば、この闘技場は現在ではオペラのコンサート開催されることで有名だそうだ。建物が建てられた時の目的でいえば、プロレスやボクシングの興行のほうがマッチしていると思うが、それなりに音響効果もよいので音楽のコンサートも悪くないのかもしれない。
円形闘技場を出て、旧市街中心部へ向かう前に、かつての東西の目抜き通りの末端のボルサーリ門を見に行く。闘技場は門の外にある形で、人口増加で市壁の内側には造れなかったのだろう。ボルサーリ門通り(かつてのデクマヌス・マキシムス)をまっすぐ行くと、ヴェネツィア共和国のライオン像が載った円柱があるエルベ広場に出る。かつてのフォルムの跡地なのだろう。広場の東面には市庁舎があり、巨大な時計塔 ランベルディの塔が建っている。
市庁舎の裏側には、ダンテの像があるシニョーリ広場があり、中世の有力者スカラ家に関連する建物が並んでいる。
シニョーリ広場近くのパン屋で昼食。切り売りのピザとミネラル水で4.22ユーロ。食後、シェークスピアのロミオとジュリエットに因んだ「ジュリエッタの家」として有名な場所を見に行く。ここだけ猛烈な数の観光客が集まっている。単なる作り話の舞台なのに、これほど人が集まるとは…
市庁舎前(かつてのフォルム)から南へ。カルド・マキシムスだった通りを歩いていくと、レオーニ門と呼ばれる古代ローマの門の跡がある。いまではカフェになっている建物の外壁に、わずかな門の跡が残っているだけだが、道路の真ん中には巨大な門の基礎が掘り出されて展示されている。
さて、時間も押してきているので、手早く残りの見どころを効率よく回ることとする。再びフォルムのところまで戻ってきて、今度はデクマヌス・マキシムスを西へ。川にぶち当たる手前に聖アナスタシア教会。2.5ユーロ払って内部を見学。13世紀から15世紀ごろに建てられたゴシック建築のごく一般的な教会。もらったパンフレットには、ヴェローナで最大の大きさの教会建築だそうで、側廊に飾られている絵画や彫刻は、教科書に出てくる有名なものもあるらしい。
デクマヌス・マキシムスの軸線から少しずれた位置にあるピエトラ橋を渡ると、丘の斜面を利用したローマ劇場跡がある。斜面を利用したのは主に古代ギリシャで、自立した巨大建造物をコンクリートで作ることができた古代ローマでは、斜面に劇場を造るのは珍しいことだと思う。ま、そこに斜面があったからそこを削って造ったのだろう。
ピエトラ橋のところでバスを待つが、まったく来る気配がないため、歩いて旧市街へ戻る。カステル・ヴェッキオの横に古代ローマのものと思われる凱旋門が建っている。街の主要軸線からずれた、こんな場所に何で建っているのだろう…
2枚買ったバスの切符は、結局1枚は使うことなく、駅まで歩いて戻ってきた。駅に戻る途中、中世のヴェローナを囲んでいた要塞跡をチラッと見た。星形のような突起のある城壁は、十字砲火という中世に考えられた戦術を実行するための土木構築物だ。古代ローマでは単なる直線状だった城壁が、中世には幾何学的な突起を持つに至る。技術の進歩とは面白いものだ。
■ ヴェローナ ポルタ・ヌオーヴァ 14:45発 → ヴィツェンツァ 15:40着 (普通列車,2等運賃 5.4EUR)
今回も列車の発車時刻の5分前に駅に滑り込み、何とか列車に間に合う。列車は、朝ここに来る時のものより客数が少なく、こんなことだから各駅停車がどんどん減って長距離の優等列車ばかりのダイヤになってしまっているのだろう。
ヴィツェンツァに帰着。空はほぼ快晴だが、アルプス山脈のほうには巨大な積乱雲が並んで見えている。あちらは豪雨なのだろう。
パッラーディオ大通りやシニョーリ広場周辺を歩き回り、中世の邸宅が多く残っている街並みを堪能する。中世建築の専門家やマニアなら、この街はさぞかし面白い場所なのだろう。私は3泊この街に泊まる予定だが、ユースホステルのフロントの兄ちゃんからは、「建築家か何かなのか?」と聞かれる有様だ。建築を見に来たのではなく、古代ローマの遺跡を見に来たと言ったら、珍しいものを見るような目で見られた。
夕食は、ユースホステルの横の川を渡った向こう側、9月20日広場にある店で今日もケバブを食べる。野菜と肉がまんべんなく入っているので、まあ、栄養のバランス的にはマシだろう。フレンチフライと缶ジュースがついて5.5ユーロ。
■ オステロ・ヴィツェンツァ 201号室 (30ユーロ/1泊・ツイン)